新年一発目に紹介するのは、「Her/世界でひとつの彼女」。
当時だいぶ話題になったので、ご存知の方も多いだろう。
2013年の作品である。
あらすじはざっとこんな感じだ。
依頼人の手紙を代筆するライターとして生計を立てるセオドアは、妻キャサリンに離婚を切り出され、悲しみに暮れていた。
そんなある日、プロトタイプの人工知能型最新OSサマンサを手にする。
生身の女性よりも魅力的で人間らしい彼女に、セオドアは戸惑いつつも徐々に心を開いていく。
サマンサとの出会いで、人生を見つめなおしたセオドアは生身の女性との恋にも積極的になる。
しかし、ことはそううまくはいかなかった。
「人工知能」との恋模様を描いた作品ということで、だいぶSFよりな作品なのかと、身構えてみてみたら、なんてことはない現代版「ロミオとジュリエット」だった。
「キャピュレット家とモンタギュー家」の関係が、「人間とOS」に立ち替わった。
それだけの話である。
それだけの話と言い切ってしまうと元も子もないので、もう少し考察してみよう。
この作品の監督であるスパイク・ジョーンズはなかなか面白い経歴を持つ人として有名で(興味があればぜひ調べてほしい)、実はソフトバンクのCMのディレクターをしていたこともある。
僕がこの映画で特に優れていると思った点は、「一貫した未来予想図」である。
多くのSF映画では、スタッフや監督が考えた「こうあってほしい」という技術や文化があちこちにちりばめられている。子供のころはそれで興奮できた。
しかし、本作においては「ブレードランナー」で描かれたような高層ビルと巨大ディスプレイは出てこない。
それは製作陣があくまで「現行の技術が理想的に発展していった場合に考えられる未来」をベースとしているからだ。
つまり、言い換えるのならば、「テクノロジーが生活(作品)になじんでいる」のだ。
主人公のセオドアの家のシーンでそれを実感する。
特殊な家電に覆われて、窓の外の景色が自由に変えられて、今日着ていく服をマシンが選んでくれる…みたいなことはまるでない。
あえて言うなら、照明が自動化、ゲームは3Dプロジェクタを通して表現され、家具が極端に減っている。
この映画の美術監督を務めたK・K・バレット氏が特にこだわったのは、この映画において一番の重要アイテムといえる「スマートフォン」の存在だ。
彼は、昨今開発が進んでいる超薄型あるいは形状可変デバイスはこの映画にふさわしくないと考えたそうだ。
人が求めた形ではなく、技術が生んでしまった形だと…。
その代わりにこの映画に登場するスマートフォンは、こんな感じだ。
カードケースのような洗練されたシンプルな形状だ。
セオドアはこれを使ってサマンサと交流を図る。
音楽もこの映画では欠かせない要素である。
実体のないOSであるサマンサは、セオドアとの交流にリアルタイム作曲で曲を作る。
セオドアはその曲を通してサマンサを感じ、安らぎを得る。
僕が知る限りでは、現状のテクノロジーで聴く人の気分や状況に合わせてリアルタイム作曲してくれるようなものはない。
しかし、その場に応じて既存の膨大な楽曲の中からおすすめの音楽をピックアップし、流すといったものは研究されているし、すでに市場に近いものがある。
…とここまで、だいぶ理系っぽい視点で映画を考察してみたが、そういったことを抜きにしてもこの映画は面白いということを最後に述べておこう。
特に、サマンサ役で声のみで出演しているスカーレット・ヨハンソンの、ときに妖艶な、ときに少女っぽい…(OS役でありながら)誰よりも人間らしい彼女の演技には感動を超えて尊敬の念を持つことだろう。
ぜひ興味があれば見てほしい。
おすすめの作品である。