「零の発見」吉田洋一 (1939)
右綴じの岩波新書。80年近く前に出版されている。手元にあるのは中古だが108刷目だ。
古本屋でパラパラ捲って「これは勉強の合間に読む軽い歴史書としてちょうどいいかな」と思い購入したのだが、予想とは裏腹に実際に頁を捲っていると、現代ではなかなかお目にかからないような日本語の言い回しのオンパレードでやや苦戦した。
ただ話の内容自体はアマチュア向けで、数式も最低限に留まり、多少は著者の憶測も含んでいるが、概ね史実をベースとして書かれている。
これを書いた吉田洋一氏はWikipediaによれば北大理学部数学科の創設に携わった数学者だったらしい。
第一部は表題の「零の発見」について。
発見とあるが、内容的にはむしろ、どう伝搬していったか。
具体的にはインドで6世紀にはすでに使用されていた位取り記数法がその後、アラビア、そしてヨーロッパへ伝わり、そこからそれが標準記法になるまでおよそ1000年(!)かかっているという意外な事実にフォーカスしている。
話題の中心がソロバンや計算尺といった道具であり、コンピュータは未来の世界のもののように語られている点は書かれた時代を多分に感じさせる。
ちなみに位取り記数法というのは所謂N進数(その中でもとくに10進数)表記のことを指している。
実用性に富んだ経験的知識で技術発展したインド・エジプト数学に対しての、有閑が生んだ論理的証明に裏付けられたギリシア数学の対比構造が面白い。
第二部の「直線を切る」では、話題はより抽象的なものを扱う。それは数学における「連続性」。
ピタゴラスを中心とした古代ギリシアの数学者らは図形から数字に神秘を見出した。
そんな彼らににとって最もプリミティブで、かつエッセンシャルだった2つの図形。
円からπが、正方形から√2が現れた衝撃。
そうして人類が初めて出会う無理数(不通約量)という存在。
集合の考え方を用いて、直線を、無限を、分かつとはどういうことかを整理して終わる。
最後の議論は改めて調べると「デデキント切断」と呼ばれているものらしく、偶然が必然か並行して他の書籍で勉強している整数論や集合論の話題に密に関わることがわかった。
しかし、如何せん抽象的な話題である上に吉田氏の言い回しも馴染みがないので読んでいて頭の整理が追いつかないことも多々あった。ただ、これについてはニコニコ大辞典の説明が簡潔でわかりやすかったので気になる方はそちらを読んでほしい。
(記事冒頭には「厳密な定義は棚上げする」とあるが、この読書記録自体も「数学に親しむ」を主旨としているので問題ない。)
一読では理解できた部分と理解できた気になっただけの部分が混在しているので期間を開けてまた再読したい。
(ここから本とは関係ない話。)
新書で親しむ数学 はシリーズ企画です。
このシリーズでは数多ある数学書の中でも、なかなかスポットライトを浴びることのない新書で刊行されている数学関連の書籍を中心にレビューしていきたいと思います。
新書をわざわざ選んだのには深い理由はなく、この時代になってもいまだに紙の書籍から抜け出せない自分が普段から持ち運びしやすいからです。
ここ数年間、私は趣味として、そして最近では仕事として、コンピュータアートをかじってきましたが、その中でふつふつと「より原始的な真理を理解したい」と思うようになり、2022年の1月から数学を勉強を始めました。
やるからには目標を立てる必要があると思っています。
目下のところでは僕が父に勧められて読んだ数少ない書籍のうち、「栄光なき天才たち」という神漫画で取り上げられていた数学者であり革命家でもあったエヴァリスト・ガロアが死の直前に築き上げた「ガロア理論」についてある程度(知らない人に説明できるくらいに)理解できたらいいなと思っています。
(始めたばかりの現時点ではその目標がどれほど高い山なのか、到底理解できていません。)
もう一つあります。私は高校生のときに数学の入試問題を解くのが好きでした。初見で解けるものはもちろん少なかったですが、東大や京大、旧帝大の数学の問題はかなりの数をトライしてきました。その中でも特に整数問題が私は好きでした。経験と発想のバランスがちょうどよく、うまくいけば計算量も多くない。
2022年の各有名大学の数学入試問題がここ数日でTLに流れてきましたが、整数問題は健在でした。
高校数学のカリキュラムがだいぶ変わったとニュースで見ましたが、こういう問題が出続けていることに喜ぶとともに、当然全く解けなくなっている現状の事実にもぶち当たりました。
そういう問題をまた解けるようになりたいと思っています。
ということで結果として、群論や集合論、それと整数論についての話が中心になりそうです。
現在、並行して4冊ほどの書籍を読んでいます。
PCとキーボードより紙とペンに触れる時間の方が長いのは高校生以来です。
それでは次回をお楽しみに。