「美しい数学入門」伊藤由佳理 (2020)
一昨年出たばかりの岩波新書。
左とじで、謝辞とあとがきを除けば160頁にも満たない薄めの書籍である。
著者の伊藤由佳理さんは、カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)というところで教授をされている方。IPMUという名前、私は初めましてだったが、数学だけでなく物理や天文学との連携をもって宇宙の真理を究明する、東京大学の研究機関だそうだ。強そう。(小並感)
さて、私が読み終えてまず最初に思ったのが「この内容でこのタイトルは違うでしょ!」だ。
タイトルだけを見たら「松ぼっくりのうろこ模様にはフィボナッチ数列が出てくるんですよ〜!」とか「Appleのロゴマークには黄金比が隠されているんですよ〜!」みたいなニュートン別冊の特集とかにありそうなポップでライトな内容を期待してしまうが、実際は高校生向けの群論の手引書みたいな立ち位置だろう。
それも、割と部分的というか、おそらく著者の考える現代数学、より具体的には代数幾何学の美しさの話題に早く持っていきたい気持ちが先走り(締切が迫っていた?)、全体としてテーマがとっ散らかっている印象を受ける。
そして、悲しいことに、そのメインディッシュである代数多様体の「特異点」や「特異点解消」あたりの話題(第5章)は話が難解かつ急展開すぎて素人ではまずついていけないと思う。(あるいは、僕の理解力がただ低かったのだろうか :thinking_face: )
だいぶマイナスな書き方をしてしまったが、ここからは読んで良かった点を上げる。
まず、大学入試以来すっかり忘れていた行列の良い復習にはなったと思う。(固有値求めたり、逆行列求めたり、懐かしい。)
あとは正多面体が5種類しか存在しないという事実は有名だが、それしかないことの証明はぼんやりとしていたので、本書での丁寧な証明はわかりやすかった。
また、それ以前のパートで合同変換の説明が十分にあったおかげで、
正六面体(立方体)⇄正八面体
正十二面体⇄正二十面体
のそれぞれが面と頂点を入れ替えただけの双対の関係にあり、両者の合同変換群が群として同型であるという部分はしっくりきた。(これについては、僕は去年Unityでプロシージャルに正多面体を生成させるコードを書いたときに知った。)
今日も地味ながらUnityで正多面体をMeshから構築。UV mappingが難解でいまだに理解仕切れてないけど「双対多面体」の概念を知って正六面体⇔正八面体、正十二面体⇔正二十面体を理解できたので一歩前進。 pic.twitter.com/YaLYPhUK33
— ayato (@dn0t_) 2021年6月14日
もう少しわかりやすく書くと、正多面体に使われる正n多角形と、1つの頂点に接する面の数mについて {n, m}
と表記するとき
正四面体 → {3, 3}
正六面体 → {4, 3}
正八面体 → {3, 4}
正十二面体 → {5, 3}
正二十面体 → {3, 5}
となっており、先程出したペアは互いにnとmを入れ替えた関係にある(対称性がある)と言える。
参考:プラトン立体(5つの正多面体)の対称性の列 - note
最後の第6章の数学教育のあり方に関する章を読むと、改めて数学という学問への憧憬の念を駆り立てられた。
やはり何事においても現場の人のメッセージというのは貴重だし、重みがある。
最後に著者本人による数学関連のブックガイドのパートがあったので気になる本を1冊購入した。
(それもいつか、ここで紹介したいと思う。)