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新書で親しむ数学03「無限のなかの数学」

「無限のなかの数学」志賀浩二 (1995)

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最初に断っておくと、読むには読み終えたが、
私はこの本の内容を完全に理解できたとは言えない。

特に第四章のカントルの集合論が成熟していく中でルベーク積分が提唱され、そこから現代数学がさらに発達していく物語などは、そもそもルベーク積分を習っていない非数学徒の自分には志賀氏の丁寧な説明を持ってしても観念的すぎて咀嚼しきれなかった。

しかし、そのことを棚にあげても本書は非常に素晴らしい一冊だった。

この本を一言で説明するなら
「"無限"という言語を通して数学が抽象と具体を行き来してきた歴史の顛末が詰まっている」一冊だ。

ざっくりと章別のあらすじを書いておこう。

第一章では、著者が小学校の教科書で無限級数と初めて出会ったときの話から始まり、「零の発見」の第二部にも書かれていたピタゴラス一派に沈黙を与えた円と正方形が与える無理数という概念、それからカントルが切り開いた集合論の基礎など、本書の土台となるような話題を紹介する。

第二章では、普段我々が慣れ親しんでいる三角関数の図形的な意味合いを改めて再確認したのちに、それをニュートンが発見した一般二項定理を使ってべき級数という無限算法で展開させて近似値を求める、なんとも愚直で美しい計算過程を追う。(当時、扱いの難しかった無限方程式に対して堂々と「これは解析術に属する」と言えちゃうニュートンさん!)そして、そこから微分積分の考えが広まり、18世紀に生まれたテイラー展開の凄さが語られる。

第三章では、(この辺りから頁を捲る手が止まらない。)オイラー微分複素数の合体技で導いたオイラーの公式を丁寧に解説。そして三角関数を座標平面上にみた波形の変化として捉えるという一種のパラダイムシフトからフーリエが導いた積分三角関数が織りなすフーリエ級数展開の力強さを伝える。フーリエが活躍した当時の時代背景についてまるまる一節使っているのだが、そこも面白い。

少し触れると、当時は産業革命真っ只中で蒸気機関の発明とともに熱力学に関する研究が急ピッチで進められていた。その中でフーリエはカロラックという熱を元素のようなものとして捉える理論のもとで熱伝導方程式を観察する過程で級数展開する手法を編み出したそうだ。

第四章については冒頭に述べたとおり、今の自分には難しかったのであえて要約はしない。無限次元の関数空間についてなどは分厚い参考書を読まない限りは理解できなくて当然だろう。

あらためて本書が描く「無限と数学の歴史」を無理やり要約するとこんな感じだと思う。

~~~

まず幾何学的な図形の観察の末に三角関数が生まれ、
極限での近似値計算の中でニュートンライプニッツ微積分を発展。
一般化された二項定理やテイラー展開を使って諸関数が冪級数展開できるようになり、
やがて今度はオイラー三角関数複素数、対数関数を取り込み美しい公式を編み出す。
今度はフーリエが熱力学の中で偏微分方程式を解こうとする道中でフーリエ級数展開を発明。
再び科学のテリトリーに数学が復活したと思ったら、
今度はカントールフーリエ展開の一意性の議論の中で集合論を作り上げた。
20世紀になって再び抽象概念の海に潜った数学は自己との対話の世界に入り、
公理主義と直観主義がぶつかったりしながら発展を続け、解析学の中でルベーク積分が完成。
集合概念同士の「近さ」に関する議論(?)とか行くとこまで 行ってしまったタイミングで
ハイゼンベルクフォン・ノイマンらの手によって量子力学の数学的表現が無限を用いて完成。
それからも、うんたらかんたら。(最後適当)

~~~

本書は一応、現在は大学数学に含まれる内容をメインに取り扱っているが発想の原点や計算過程などがそこそこ丁寧(それでも肝心な部分は飛ばされていたりもするが、それは本書の趣旨である無限と数学の歴史を語る上ではしょうがない部分。)に書かれているので読みづらさはほとんどない。これが25年前の著書だとは到底思えない。志賀浩二氏は数学30講シリーズ(存在は知っているが読んだことはない)の著者でもある。

ポジショントーク?あるいはマウント?のように受け取られてしまったら本意ではないが、「数学なんてなんの役に立つのさ」と将来子供に言われたときに「公式だけ覚えててその背景を知らないと、こういう本の面白さとかわからないまま死ぬけどいいの?」って言えばいいかな。いやいや、そんな親嫌すぎる。


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