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新書で親しむ数学04「無限と連続」

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戦後の数学教育の大家であり東工大名誉教授も務められた遠山啓先生の有名な新書。

楽譜が読めなくても音楽が楽しめるように、数式が分からない読者でも数学を「鑑賞する」ことができることを念頭に置いて書かれている。

本書のタイトルからもわかるように遠山先生の物書きとしてのセンスが随所で光る。
各章のタイトルはこんな感じ。

第一章 「無限を数える」
第二章 「もの」と「働き」
第三章 創られた空間
第四章 初めに群ありき

実のところ、この新書で親しむ数学シリーズの中で一番最初に手に取ったのはこの本だった。タイトルかっこいいし、200頁もない薄い新書だし、お手軽だろうと高を括っていた。

ところが、テーマが位相空間に入って議論が白熱する第三章後半あたりで何度同じところを読んでも目が滑るようになってしまい、最終章を読む前に一度本棚に寝かせることにしたのだった。

それから2ヶ月ほどの間に数冊の関連本を読んできて、いよいよいけるかな?と思い再トライしてみた。

今回は無事読み切ることができた。位相空間、完全に理解した。

立ち位置としては大学数学の入門書くらいのレベルだと思われ、扱うテーマも群論や位相幾何といった高校数学まででは聞き馴染みのないトピックばかりだ。

コンセプト通り数式らしい数式はほとんど出てこず、文章も口語的。議論の出発点は常に直感的なところからだし、抽象的な話題に関してはすぐに例え話を出し、議論が小難しくなったらスパッと省略したりもするので、たしかに門外漢がさらっと読んでもわかった気になれてしまう。岩波新書のロングセラーの根拠はまさにそこだろう。

特に象徴的なのは「推理のスイッチバック」のくだり。初めに我々のよく知る「距離」の概念から出発し、閉集合の議論に到達した後、再び今度は閉集合から議論を始めて、より抽象度の高い位相空間の頂を目指すという数学が得意とする思考のステップアップ術を文章だけで味わうことができる。ここはどんな読者でもきっとワクワクが止まらないはずだ。

しかし、本当の意味でここに書かれていることを理解するのに、果たしてこの本が最適かと言われればそうは思えない。(現に私は一度挫折をしているわけだし。)ある程度、教科書的な本で洗礼を受けてから手に取るのが良いだろう。

正直なところ、私自身も最終章の、特に無限遠直線や非ユークリッド幾何あたりの議論は到底理解しきれたとは言えない。しかし、まあ今の自分のレベルでは、と割り切ってしまうことにした。数学の勉強とは常にそんな感じだと思っている。

さーて、次は何を読もう。


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