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「1000%の建築」(著・谷尻誠)を読んだ。

一言で言えば、絵本のような本でした。

 

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先に断っておくと、谷尻誠さんのことはこの本で知りました。

(お恥ずかしならが…)

なのでこれまでの建築作品とかはほとんど知らずに本書を読みました。

実際、建築家が著者の本を読めばこれまで手がけた作品の写真がいくつかは出てくるんだろうなぁと思って手に取ったんですが、これが全く出てこない。笑

 

冒頭の章で自分の実家の間取り図が出てくる以外は建築家っぽいイラストさえ出てきません。

 

この本はどちらかといえば普段建築家の頭の中がどんなことで構成されているのか、をチラッと覗き込むための作品と言えるでしょう。その意味でいえば谷尻さんはとてもgoodな建築家さんだと感じました。

 

アカデミックすぎない、かといってアーティスティックすぎない、常に枠の外にあろうとする人。ひねくれ者。

 

個人的には「名前が事象の役割を決定づける」という話がいかにも天邪鬼的な発想で共感できるものがありました。

 

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 例えば【コップ】は【コップ】と名前が付いているから何かを飲むための道具として認識されるけど、一度【コップ】という名前を取っ払ってしまえば金魚鉢にも花瓶にもなり得る = 名前が可能性を奪っているという話

 

例えばそれがダンボールであっても【POST】とペンで書いてあげることで郵便屋さんはそこに郵便物を入れてくれる = 名前が可能性を広げてくれるという話

 

THE FUTURE TIMESのゴッチとの対談でも同じ話をしていますね。 


改めて本当に言葉を大切にする建築家さんなんだな、と感じました。

こういった「当たり前を俯瞰で見る」というのは職能関係なくクリエイターであれば必要なことだとぼくは思います。

(現にこの本の中に掲載されている漫画家の窪之内英策さんとの対談でもお互いの仕事に対するこういった類似点が語られていました。)

 

そして何より面白いのが、この本は「読む」という行為、それ自体を「俯瞰で見る」ということに挑戦しています。

 

最初に「絵本のような本」と書きましたが、まさしく「絵本」とは、まだ「読む」という行為自体が当たり前ではない子供が言葉とイラストで物語を理解するためにあるプロダクトです。この本では改めて「読む」とはなんなのか、自分のメッセージを読者により理解してもらうためにはどういった構成にすれば良いのか、本のあり方を谷尻さん目線で【翻訳】した作品と言えるでしょう。

 

僕は、全部を読んだ後に「本当に全部を読んだのか?」とついペラペラと頁を巻き戻してしまいました。笑

 

とってもハッピーな本でした。

 

1000%の建築

1000%の建築

 

「建築家、走る」(著・隈研吾)を読んだ。

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世界を股にかける建築家・隈研吾

彼の半生を通して彼自身が持つ建築に対する哲学がバッチリと伝わってきました。

なによりどの章も、(個人的には「石の美術館」の話が特に!)建築家としての「スマートさ」ではなく「泥臭さ」がひしひしと感じられる内容で、門外漢の自分が読んでもつい唸ってしまうような話ばかりでした。

 

面白かったのは偶発的な事故で建築家にとっての宝でもある利き腕の自由を失った彼が、そのことを通して初めて無意識の制約から開放されたという話。

それまでの社会に対して能動的だった自分がガラリと一転し、受動的に世界を見れるようになった、と。

大きな怪我によって建築にとって大切な「場所」を感じ取りやすくなったというのはなんとも皮肉……というか不思議な話です。

 

また、コンクリート建築と木造建築の比較、これ自体はいろいろな著名人が語っていることですが、隈研吾さん自身の語る「死にゆく建築」の話は難しい建築哲学を知らなくてもスッと理解できる上に納得させられる内容でした。

 

本書は真面目な内容ももちろんなんですが、時折文章に垣間見える隈研吾さん自身の根暗な部分、ニヒリストな部分が毒舌となって表現されていて、その人間らしさが好きになりました。

 

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「建築家、走る」はタイトルの通り建築家・隈研吾自身がいかに日本・世界を走り回って一貫した現場主義、いや「場所」主義で”建築”と向き合ってきたかがわかる良書であると同時に隈研吾さんが見るコルビジェ以降の建築業界の歴史的経緯を理解するのにもぴったりな一冊といえるでしょう。

 

あらためて今年は「建築」についてもっと詳しくなろうと思わせてくれた1冊でした。

 

建築家、走る (新潮文庫)

建築家、走る (新潮文庫)