世界を股にかける建築家・隈研吾。
彼の半生を通して彼自身が持つ建築に対する哲学がバッチリと伝わってきました。
なによりどの章も、(個人的には「石の美術館」の話が特に!)建築家としての「スマートさ」ではなく「泥臭さ」がひしひしと感じられる内容で、門外漢の自分が読んでもつい唸ってしまうような話ばかりでした。
面白かったのは偶発的な事故で建築家にとっての宝でもある利き腕の自由を失った彼が、そのことを通して初めて無意識の制約から開放されたという話。
それまでの社会に対して能動的だった自分がガラリと一転し、受動的に世界を見れるようになった、と。
大きな怪我によって建築にとって大切な「場所」を感じ取りやすくなったというのはなんとも皮肉……というか不思議な話です。
また、コンクリート建築と木造建築の比較、これ自体はいろいろな著名人が語っていることですが、隈研吾さん自身の語る「死にゆく建築」の話は難しい建築哲学を知らなくてもスッと理解できる上に納得させられる内容でした。
本書は真面目な内容ももちろんなんですが、時折文章に垣間見える隈研吾さん自身の根暗な部分、ニヒリストな部分が毒舌となって表現されていて、その人間らしさが好きになりました。
「建築家、走る」はタイトルの通り建築家・隈研吾自身がいかに日本・世界を走り回って一貫した現場主義、いや「場所」主義で”建築”と向き合ってきたかがわかる良書であると同時に隈研吾さんが見るコルビジェ以降の建築業界の歴史的経緯を理解するのにもぴったりな一冊といえるでしょう。
あらためて今年は「建築」についてもっと詳しくなろうと思わせてくれた1冊でした。